「次は東京、東京〜終点です」
車内アナウンスで、目を覚ます。
うおっ! 久々にやっちまった!
俺は、都内から高崎へ長距離通勤している。
通常の帰路としては、高崎から上越新幹線に乗り、上野で在来線の山手線に乗換えて、秋葉原で降りる。
つまり、上野から東京まで乗り越してしまった。
23時を過ぎているので、もう下りはない。Suica定期券なので、ばっくれて有人改札を通る訳にもいかない。次に改札機にタッチした時にエラー表示されて、ばれるのだ(笑)。
いや、別に不正乗車するつもりはないが、ちょっと納得いかない気がする。たった5分。山手線で4駅(秋葉原は上野と東京の間にあるので、乗り越し2駅)、在来線なら150円なのに、新幹線で乗り越すと、880円も取られるのだ。
まぁ、あれこれ考えてもしょうがない。諦めて、新幹線改札に定期券をタッチ。
エラー。
え!? Suica残高はたっぷりあるはず。
「申し訳有りません。あちらの精算カウンターへお願いします」
係員に言われる。どうやら改札システムの不具合らしい。
精算カウンターで、Suica定期券を出す。
「どちらまで?」
年配の駅員さんが事務的に聞いてくる。
「秋葉原まで」
無愛想に答える俺。
「……寝過ごしたんですな……」
ふん。そうだよ。どうせ酔っ払いだよ。おかげで、儲けたな!
「はい、どうぞ」
定期券を返してくれる。
「エラー訂正処理はしておきましたから」
そう言いながら、精算切符をくれる。
「定期券じゃ出られないですから。この精算券で、新幹線改札と秋葉原改札を通ってください」
「どうも」
千円札を渡す。
「あ、いいです。エラー処理しましたから」
改めて精算券を見ると、「0円」
「次は、終電で寝過ごさないでね。長距離通勤、ご苦労様」
「……あ、ありがとうございます!」
終電も終わった時間。新幹線改札を抜けて、何気なく精算カウンターの方を見ると、さきほどの年配の駅員さんが、他の駅員さんたちに囲まれて、花束をもらっていた。
「お疲れ様でした!」
どうやら、定年退職されたらしい。
コメント
なんだかとってもイイ話ですね。
そのまま一冊の絵本とかにできそうだなぁ。
駅員さんにとってはびといんさんが最後のお客だったんでしょうな。
「これが最後だ」と思えたら人に優しく出来るものなのかな。
少ししんみり。
最後のイレギュラー処理が、この0円清算券なわけですね。
しかし、乗り越したドジをいい話で隠すとはやり方が汚いです。
良い駅員さんでしたね。
「長距離通勤ご苦労様」って言葉に
( ;∀;) カンドーシタ
いい話!
東京駅(!)だけあって、粋な駅員さんもいたもんですな。
こういう配慮ができるような駅員さんて減っていくような気がしますね。なんだかさびしいです。
いい話ですねえ。
旧国鉄時代を生き抜いてきた鉄道員なんですね。
目頭が熱くなりました。
びといんさん、お疲れさま☆
そんで、駅員さんにもご苦労様。( ̄ーÅ)ホロリ
ろぷさん江
たぶん、駅員さんの顔はすぐ忘れてしまうと思います(酔ってたし)。もちろん駅員さんも、俺ような客の相手など無数にあったでしょうし。
でも、最後だと知っていたら、もっと丁寧にお礼を言えたのに。
すしバーさん江
実話だし、もちろん自分のドジを隠すつもりはないのですが、乗り越し料金が高いなと愚痴ったり、少々ドラマチックに記述しようとした意図はあります。
それを汚いといわれたら、まぁ、俺はそういう人間だと思っていただいても結構です。
ロバ子さん江
うん。まったくの他人から、さりげなく言われると、心に響きます。
マンガーさん江
下り新幹線があれば、上野まで戻るんですけどね。
すしバーさんのご指摘のとおり、まずは俺の不始末なんで、家に着く頃に駅員さんを思い出した時、それに比べて最初に乗り越し料金が高いなとぼやいていた自分が、とても小さく感じました。
Kenさん江
たまたまカウンターに並んだ客が少なかったってのもあるんでしょうね。あと、定期券見せて精算で、あきらかに寝過ごしたって見え見えだし(笑)。
ponsukeさん江
あ! そうだね。駅員さんにもお疲れ様でした、ですよね。
いいお話ですねぇ。しみじみと感じます。
こういう人情に溢れた方、きっと苦労も多いと思うんですよ。定年までその人情を貫かれた姿勢に敬礼です。
少佐さん江
いい駅員さんでした。
俺は酔っぱらっていたので、その時点では、単純にお金がかからず嬉しかっただけですが、もっと感謝せねばならんのですよね。