界導士ジノイ 03

 3

「こんなに、ノネズミのように逃げ回ったのは、久しぶりだ」
 ジノイが、まるで他人事のようにつぶやいた。
 あれだけ走ってきて、不思議と呼吸の乱れはまったくない。
「もう、一歩も、動けないわ。死にそうよ!」
 セシールの方は、肩どころか全身で息をしている。
「本当に死ぬところだったかも知れないんだぞ。いや、生け捕りにされたか」
「……私は、死なないわ……」
「やはり、身に覚えはあるんだな?」
「まだ、あなたの名前を聞いていないわ」
 セシールは、ジノイの言葉は無視して、そう言った。
「ジノイ・タッカー。ご覧の通り、界導士だ」
「カイドウシ?」
「マジに知らないのか? ふぅ」
「えぇ、知らない」
 ジノイは、やれやれ、というジェスチャーをしつつ、苦笑いで言葉をついだ。
「ヴェ教団の界導士。どんな人間でも、必ず善心を持てる。その介助を行なって、
天界へ導く」
「ふぅん。ふらり旅?」
「いや。目星を付けてたどり着いた」
「……で、この街に該当者がいるというわけだ」
「ここかどうかは判らんが……。手掛かりを探しに来た」
「ふぅん」
 セシールは、さして興味はなさそうだ。
「さて、今度は俺が質問する番だ、セシール」
「なぁに?」
「なぜ、狙われている?」
 ジノイは、単刀直入な男だ。
「藪から棒ね」
「あぁ、無駄なことは嫌いな性分なんだ」
「そう……。んー、私が逃げ出してきたから、よ。今はこれだけにしといて。お願い」
 哀願するセシールに、ジノイは、うなずいた。別にセシールの色気に負けたわけ
ではなく、無理に聞き出しても仕方がない、ということだ。
「しかし、こうして見ると、本当に女みたいだな……。いや、失礼」
 ジノイも「美人おかまダンサーのセシール」の噂は、すでに耳に入れていた。
「本当に失礼ね。私は昔から女よ!」
 セシールが、すさまじい剣幕で怒鳴る。
「うむ、すまん」
(どんな人間にも過去はあるものだ。そういう部分には触れないことだ)
 というのがジノイの信条のひとつだ。
「もしかしたら、お前の力になれるかも知れない、と思っただけだ」
「私は私独りで生きていくわ」
「あぁ、それもよかろう」
 そうは言ってみたが、ジノイは、セシールという人間に惹かれたようである。

(c)日向夢想/夢想人企画

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