「再会」
真っ黒に塗られた小型ヘリコプターが静かに夜空を飛んでいる。
「尾藤さん、とても調子いいですよ」
操縦桿を握るパイロットが言う。
「常温超伝導体を組み込んだだけで、嘘のように騒音が消えている」
後部シートに座る黒ずくめスーツの男=特務機関KINUSAYAのエージェントも感心している。
「俺は知識を提供しただけです。これはうちの大将自ら設計した機体です。でも、ちょっと狭いですね。きっと大将じゃシートに収まりませんよ」
「だから尾藤さんが随行するように言われたんですかね?」
それに、尾藤は苦笑まじりに応えた。
「いや。大将の「消音コネリー号」ってネーミング案を満場一致で却下したんで、へそ曲げちゃったんですよ……と、この辺りですよね、オーブ反応が出たのは」
と、通信機に入電が来た。
『そちら方面に、ネズロン反応です!』
工場でサテライトZを操る、謎野Zの声だ。
「まじかよ!」
「やばいな。ネズロンもオーブを察知して、追っているのかも知れない。急いでくれ!」
エージェントが身を乗り出すようにして言った。
「何としても守らねば。猫田ミキ……オーブレッドを! シンクロする前にやられては元も子もない!」
「あ、あれじゃないですか? あの球状の光」
地上に向かって急降下して行く光をみつけた尾藤。
「低空へ!」
エージェントが言った、その時。
〈大丈夫だ。手出しはさせない〉
機内に、低く、柔らかい声が響いた。いや、皆の脳内で響いたのかも知れない。
「オーブ!?」
〈彼女とシンクロする〉
「よし。何とかもつな。……あそこだ。あのネズロンどもの方に、もう少し近づいてくれ!」
エージェントが拳銃を構える。
キュィン!
その大きさと形状に似付かわしくない、金属音のような音と共に、細いレーザーが地上のネズロンめがけて放たれた。
キュィン!
「何!?」
纏ったローブの裾にレーザーを被った淑大僧正は空を見上げた。
「不覚! 邪魔者か。落ちろ、カトンボ!」
太い杖をヘリコプターに向けて振ると、その先から細かい波動が突き進んだ。
ヘリコプターが少しバランスを失う。ダメージを受け、ハッチが開いてしまう。
尾藤が、ハッチを締めようとした途端、第二波が来た。
「うわぁっ!」
「尾藤さんっ!」
尾藤は機外に放り出されてしまった。地上に落下。しかし、不思議とダメージはほとんどなかった。
尾藤の回りをネズロン兵が取り囲んだ。
「パンサーネズー、お前は玉を追え!」
「はい、淑大僧正様!」
ネズロンモンスター=パンサーネズーは、素早い動きで、光の方へ跳躍していった。
「オーブを追ってください!」
尾藤はヘリコプターから顔をのぞかせるエージェントに叫ぶ。
「俺とオーブと、どちらが重要ですか! 早く!」
「……了解、すぐ援護が来る!」
真っ黒のヘリコプターも、光る玉とパンサーネズーを追って消えた。
「お前たちも行け!」
淑大僧正は、パンサーネズーが消えた方向を杖で示した。
「チュチュー!」
ネズロン兵たちは、軽く敬礼すると、パンサーネズーに続いた。
数秒間の沈黙。それを打ち消したのは、淑大僧正の方だった。
「久し振りだな、尾藤」
名前を呼ばれ、驚く尾藤。
「先程、貴様の脳波を察知したので、ここへ呼んだ」
「はぁ? いったい誰だ!?」
「ふっ。判らんか。貴様の研究成果ファイルをいただき、同時に、大学の破壊工作をしたのは、我だ」
淑大僧正は、不敵な笑みを浮かべた。
「……お前……吉行か!」
「昔の名は、そんなようだったかも知れん。今は、淑大僧正。我の能力を評価してくれた邪魔皇帝陛下に、身も心も捧げた。過去を捨てた男だ」
額に角が生え、頬はそげ落ち、眼光は鋭くなってはいるが、確かに、尾藤のかつての友・吉行の面影はある。
「吉行、俺をどうする気だ、しかし、なぜ……」
「尾藤、貴様は有能だ。ネズロン帝国に来い。邪魔皇帝陛下に従い、共に理想の世界を作ろう」
「断る!」
「くっ、慈悲を与えたものを……」
チュドドーン!
淑大僧正が言い終わらないうちに、爆発音が聞えた。
「!! しくじったか!」
きびすを返しながら、淑大僧正が言った。
「また逢おう! 尾藤、貴様は、一生、我の影を見ながら生きるが良い。わははははは」
「吉行……淑大僧正……」
尾藤は、その場に立ち尽くす。
エージェント達のヘリが戻ってきた。
「尾藤さん!」
「……歩いて帰る」
「しかし、ここからどうやって?」
「うるさいっ、放っておいてくれ!」
「そんな事、できませんよ。困らせないでください!」
KINUSAYAのエージェントは、半ば無理やりに、尾藤を機内に押し込んだ。
中には、少し脅えたように体をこわばらせた娘もいた。
「君が、猫田ミキさん? 大丈夫だから……よろしく、尾藤です」
尾藤は、この場は、かろうじて笑顔を繕った。
「やつは、どうしました?」
エージェントの問に、尾藤は、
「劣勢と判ったんでしょう。すぐに逃げました」
そう言って、ミキの方を見た。さっきよりいくらか冷静な顔で。
ねこぱんち!
→ぷよぱぱの雑記帖:【玉猫戦隊オーブファイブ】 猫田 ミキ 登場 【前編】
→不条理み○きー:【玉猫戦隊オーブファイブ】 第二 リンクリスト
→俺育て!虎ヘッド風味:熱闘ブログ編: 馬場鉄工所のメンツ確定
コメント
すしバーさんの「尾藤は大僧正と会って、ショックを受けてくれ」という要望に応えて、こんなの書いてみました。
尾藤が馬場鉄工所に入ってからなるべく早い時期に再開している方が良いだろうと思い、ぷよぱぱさんのオーブレッド誕生の話と並行する設定をでっちあげちゃいました。
またもや、他人のフンドシで相撲……ごめんなさい。
【玉猫戦隊オーブファイブ】 第二 リンクリスト (全102編 増加中)
最終更新日:2004.11.30 AM03:39 「玉猫戦隊 オーブファイブ」をご愛顧いただき、有難うございます。 ついに本リスト掲載記事が、100篇…
ばるほど、ばったり会ったわけですね。
それは衝撃的ですね。
こっからすでに、苦悩してゆくわけですよね。
と、すると、この先最終回まで比較的無口で、時々、沈痛な表情をしているキャラになるわけですね。
この構成うまいですねぇ。
ぷよぱぱさんのストーリーの裏ではこんなドラマがあったのですね。
ぷよぱぱさんの設定を上手く料理してますね。
とまどうミキととまどう尾藤がヘリの中で初対面というわけですか。
こういう感じでアナザーストーリーを足していくとドラマに厚みがましますねえ。
★びといんさん
昨晩はうたた寝をしていて、気付くとこのきじが来ていたので慌ててTBだけ送っときましたが、そのまま撃沈してしまいました。^^;
物語の隙間を埋める物語があると、俄然話が面白くなりますよね。
今後とも、本編、サイドともよろしくお願いします。^^/
すごいです。
ますます面白い展開になってきました。
ちょっと先のほうで、つなげてみたいと思いますので、
よろしくです。
すしバーさん江
えぇ。この事は誰にも言えないで苦悩はします。馬場ちゃんは気付いていそうですけどね。で、無口で、過剰なほど冷静とか。
でも、先日の有給をもらった時に、なにかふっきれたらしく、徐々に、自ら率先して開発をすすめるようになっていくと。
マンガーZさん江
どこかで、こういうザッピング風なのをやりたかったんですよ。
ちょうど、ぷよぱぱさんのレッド誕生の回に淑大僧正が出ていなかったので、寄生しちゃいました。
ぷよぱぱさん江
すいません。「オーブを狙っている重要任務なんだから幹部も随行しているはず。なのに居ないのは、きっとこの時、大僧正にはごっつい用事が別にあったのだ」と、勝手に解釈しました(笑)。
ミキについては、台詞すら書かず、いじらずにおきました。
主役を使うのは、またいずれ。
Kenさん江
おぉ、これをつなげてくださるんですか。光栄です。
そういえば、俺は、話数でいうと「ネズロン帝国の秘密」の回を飛ばして、「ネズ神博士登場&淑大僧正最期」編を書きたいところですが、とても長くなりそうです。テレビスペシャル規模か?(笑)
馬場鉄工所の最初の日
長くなりましたのでたたみます。 関係各所にトラックバックさせていただきます。 か
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「チオリちゃん、大丈夫か?顔、真っ青だど」「うん」マルの優しい声かけも、今のチオリには頭に入ってこない。 (1) 降下訓練オーブクローラーの…
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玉猫戦隊オーブファイブ:音速の悪魔(前編)の続き。— (2) 黒い機影「おほほほほほほほ!」オーブクローラーのコクピットに不気味な高笑い…
びといんさん、初めまして、あぐりこです。
淑大僧正と尾藤さんのストーリー、素晴らしいです。
どちらも曰くありげな風なので、突き詰めれば面白い展開になるだろうとは思ってました。
それを見事に形にしましたね。
大僧正が、あの吉行だったくだり、
息を呑みましたよ。
これからの展開も楽しみです。
あぐりこさん江
ようこそ。
みなさんに褒めていただいて、すっかり有頂天になってる俺です(笑)。
あぐりこさんのイエローのお話も楽しかったです。
おたがい、楽しみましょう。
ボツにされた怪人、返品されたてきて壊れた。
大僧正さん、怪人なんて直せないしなあ…
それに加えて…(諸事情により中略)さんが…また一人減った…どないしよ…
この空気のまま本編書いても編成部に部外者扱いされちまう…てめーは脚本家じゃない(゚Д゚)ゴルァ!消えろ!ってな!
このままじゃ怪人作るどころか、怪人になっちまうよ!!
どうするんだよ!
びといんさん助けてくれ!!作った怪人のリスト送るから!!
でも、ここにかけないしなあ…どうしよう
.,。oO'”(/Θ`)’;o。,ゥワアァァァン
どんな事情があるか知りませんし、また知ろうとも思わないですが、作った怪人のリストを俺に送られても何もするつもりはありません。送らないでください。
ここに記事とは無関係な、訳の解らないコメントを書かれても困りますし、そもそも面識も交流もないのにいきなり「助けてくれ」というわりにはきちんと名乗りもしないで、フリーメールのアカウントだけ記入されるのも、失礼じゃないですか。迷惑です。
尾藤一郎
いつも、何かしら悩みを抱えている。常温超伝導の技術を持つ。彼の話は、彼自身が語ってくれるでしょう。ねこぱんち日記:再会