習作落語「自転車」

 洒落で「姫林檎足達《ひめりんご あだち》」という亭号をつけてから4ヶ月くらい経過したかな。

 創作落語を作ろうと1ヶ月以上悶々としつつ、なんとか落語っぽくなったので、恥を忍んで公開しちゃう。
 落語というより、小話、いや、まくらみたいなもんで、まだまだ稚拙。創作落語ならぬ「習作落語」
 よろしければご覧下さい。
 ご教示叱咤激励、大歓迎(笑)。

 縦書き文庫で読む場合は、こちら→縦書き文庫掲載「落語 自転車」

 自転車
       姫林檎足達

 省エネを叫ばれてから久しいですな。こと東北大震災以後は、顕著に節電だのエコカーだの。もちろんそれは歓迎すべき事ですが、我家はもっぱら自転車です。自転車もちょっとしたブームではありますが、断じてそれとは関係なく。実はなにしろ、うちの家族の誰も車の運転免許をもっていませんでして。
 休みの日などは、嫁さんと買物に行くんですが、二人で自転車をこいで、1キロ2キロくらい離れた大型スーパーに行ったりしております。

「おまいさん、お米がなくなりそうだから、ちょいと買物に行ってきてくださいな」
「あいよ。十《じっ》キロのだろ。俺の自転車ァカゴが小せえから、お前えの自転車ァ借りてくよ」
「はいよ。頼みますよ」
「おう、行ってくらぁ。……なんだよ、空気が甘ぇじゃねぇか。えぇと、空気入れはっと……あったあった。よし、こうな……しゅっぽしゅっぽとな……おい、思ったより入《へぇ》るな。こんなんなるまで放ったまんまで乗ってちゃぁ、タイヤも痛むってもんだ。……よし、これで入った。よっこらしょっと。しかしかかぁは偉いよなぁ、中古で買った自転車でもう五年くれえ乗ってるって言ってたけど、大事にすりゃぁまだまだ乗れらあ」

 ってな訳で、亭主、熊さんは十キロ入りの米を買いまして、自転車——いわゆるママチャリの後ろのカゴに入れて、乗って帰ります。
「それにしても何だね、こう、大きなもんの買物の使いに出るのぁ構わねえが、十キロってえのは重てえな。この重さ、こりゃどう考えても十キロくらいはあらぁな」
 熊さんの自転車、途中、路地に入った所で、向こうから車が入ってきまして。
「……とっとっとっとっ! あぶねぇなぁ! こんな細ぇ路地に車で入って来《く》んない!」
 熊さんの自転車と車のすれ違いざまのその時「パァーーン!」と大きな破裂音がして。
「うわっ! おいおいおい! びっくりした! あの車、パンクしやがった! へへへ、ざまぁみろい。……あぁ、あいつ、パンクに気付かねえでそのまんま走っていっちまった。まあいいや。こっちは重てえもんを運んでんだ。早く帰ろう。
 あぁ、ほんとに重てえなぁ。自転車がギシギシいってるよ。こぎにくいな。……っと、ただいまぁ。米ェ買って来たぞ」
「はいはい。おまいさん、ありがとう。……あら、なんだい! 自転車のタイヤに穴ァあいてるじゃないよ!」
「えぇ? あっ本当だ。なんだそうか、ありゃあ俺の自転車のパンクだったのか」
「なんだじゃぁないよ。こりゃパンクなんてもんじゃないよ。普通のパンクってのは中のチューブに穴ァあいて空気が漏れんで、こりゃぁガワのタイヤに大きな穴ァあいてるじゃないのさ」
「いやぁ、空気が足りねぇみてぇだったからよ、乗る前にしゅっぽしゅっぽとやったんだが、入れ過ぎたかねぇ。こいつはすまねぇ」
「しょうがないねぇ。まぁ、あたしがお使いを頼んだんだし、わざとやった訳でもない。もういいよ、おまいさん。この自転車もだいぶ乗ったからねぇ」
「本当にすまねぇ。次の給料日に新しいのォ買ってやっから、な」
「はいよ。かえってありがとう。じゃあ、この自転車は粗大ゴミに出さないといけないね。今までお疲れさま」
「粗大ゴミ券を買って貼っ付けて、出しとくよ」

「おう、熊さん、どうしたい。その自転車ァおめぇのかみさんが大事に乗ってたやつじゃねぇか」
「あぁ、八っつぁんか。これなぁ。ごらんのとおり、タイヤのガワにでけぇ穴があいちまってよ。ハンドルもちぃっと曲がってるしサドルもぼろぼろだ。もうそろそろ新しいのを買ってやろうと思ってな」
「おめぇはいつもかみさん思いだねぇ。それで粗大ゴミに出そうって訳かい。ふーん。捨てるんなら、俺にくれねぇか?」
「そりゃ構わねぇが、こんな古いもん、どうすんでぇ?」
「ニコイチよ。まだ大半は使えるだろ。他の自転車と組み合わせて一台作るンさ。今の時代、物を大事にリサイクルってな」

 初出 2012年十月二五日
 姫林檎足達/夢想人企画


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