玉猫戦隊オーブファイブ 復活の尾藤(前編)

 復活の尾藤(前編)

 炎煙の中、避難する人々。
「くそぉ、止まらない!」
「……も、もう、無駄だよ、尾藤……」
「ん……吉行か!? どうしてお前がここに!?」
「うん……そんな事、どうでもいいじゃないか。久し振りに、逢いたくなってな……」
「そんな事を言っている場合じゃない。早く逃げよう。爆発するぞ」
「尾藤……学生時代は、仲良くやってたじゃないか。たのシカttanaa……」
 語尾は何を言っているのかよく分からない。吉行は、段々と悪形に変身してゆく。
「うわ、吉行、やめてくれっ。く、苦しい!」
「死ねっ! わははははははははは……」

 ……。
「尾藤さん! 大丈夫ですか!?」
「……Zさん……あぁ。ごめん」
「だいぶうなされてましたよ。デスクに突っ伏してたから、俺と大将でここまで運んできたけど、ソファじゃ眠り浅いっすよねぇ。変形機構の検討、出来上がったんでしょ。尾藤さん、疲れてるんですよ。ね、大将」
 謎野Zに促されると、馬場が振り向いた。
「あぁ。Zさんさぁ、寝言に応えて話しかけるといけないっていうっしょ!」
 真顔で言う。
「そうじゃなくって!」
 謎野が苦笑すると、尾藤もすかさず、
「ははは。どうやら正常に起きたよ。大丈夫です。ありがとう、Zさん」
「それはよかった!」
 尾藤は平静を装ったが、このひどい寝汗は、おそらく謎野には気付かれていただろう。
 それでも何も言わないのは、それが謎野の、いや、この工場のメンバー皆の優しさなのだ。
 優しさついでに、もうちょっと甘えよう。
「大将、今日はこれから休暇もらっていいですか?」
「もちろんオッケーですよ!」
 馬場は、オーブクローラーとのホットライン・モニターから目を放さないまま返事した」
 その時、ホットライン・モニターから、虎ケン司令の声がした。
『王手!』
「うぉっ! ケンちゃん、こりゃキビシイですわ!」
 馬場が、鼻に突っ込んでいたタバコを吹き飛ばした。
『待ったなし。馬場ちゃん、俺、ガッツのチャーハンな』
「大将は、今月3勝38敗です。しぼーい!」
 玉造が追い討ちをかける。
「じゃ、すいませんが。おつかれちゃん」
 尾藤が室を出てゆく背後で、馬場が叫んでいる。
「コンバットスーツを出せ!」

 ……。
 工場から地上への階段の途中、尾藤はつぶやいた。
「また最近、同じ夢を見るようになった……」

 数年前。城北大学・都市環境物理学部研究室。
「では、始める」
 尾藤がスタッフに合図をすると、起動スイッチが押され、低い唸りをたてて、装置が動き出す。
 ヴィンンンンン……。
 試験用としてスケールダウンして製作されたとはいえ、それでもウィンドウで仕切られた向こう側の機械室の大半を占める程の大きさで、ましてや、まともな防音はまだ施されていない。
「どうやら成功のようですね、助教授!」
「うん。しかしこれでは、新たな防音・静振装置も開発しないと無理だな」
「ですが、ここまで来れば、もうすぐに実用化できます。これも全て尾藤助教授の功績ですよ」
 スタッフに言われ、尾藤は、ご満悦だ。
「有り難う、みんな。この常温超伝導によるエネルギー炉と転送装置があれば、都市部のリサイクル問題は一気に解決です。その研究さえできれば、私は満足だ」
 その時。装置の騒音が異様に大きくなった。
「制御不能! 回転数が下がりません!」
 スタッフたちが絶叫している。
「そんな馬鹿な! 昨日の改修で問題は全て取り除いたはずだ!」
 尾藤も動揺しつつも、怒鳴り返す。
「しかし! と、とにかく、このままでは耐え切れません」
 尾藤は、機械室に飛び込んだ。
「助教授、危険です。まもなく臨界点です!」
「みんな、先に逃げろ」
「助教授は!?」
「ギリギリまで粘る。大丈夫だ。すぐ追う! 行け!」
「す、すみません…」
「くそぉ。下がらない!」
 異臭とともに、煙が発生してきた。
 制御弁も効かない。十数分間頑張ってみたが、簡単に原因は分からなかった。
「やむなしかっ!」
 後ろ髪を引かれる思いのまま、尾藤も避難する。
 炎煙が渦巻く廊下を少し走ると、途中で対向する男とぶつかった。
 転がりながらお互いの顔を見合う。
「そっちじゃない、逆だ!間も無く爆発するぞ!」
 尾藤が叫んで、男の腕を掴むと。
「……び、尾藤!!」
「ん……吉行か!? どうしてお前がここに!?」
「い、いや……」
 吉行と呼ばれた男は、咄嗟に傍らに落としたファイルケースを手に戻した。
「話は後だ。早く、ここから出よう!」
「いや、俺は……俺は……。しかし、どうしても、お前には負けたくなかったんだよ、尾藤!」
 吉行は、立ち上がると、危険な区域の方へ向かって走る。
「おい、吉行!そっちは……」
 隣のエリアで爆音が響き、尾藤の次の言葉を遮った。
 吉行を追うことは、もうとても無理だ。
 混乱状態のこの時はまだ、尾藤は、吉行の捨て台詞の意味に気づかなかった。

 つづく。

追記。
 設定上の不釣り合いが懸念されるため、本作中の尾藤の肩書きを当初の「教授」より「助教授」に改定しました。(2004/10/24)

ねこぱんち!
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通勤マンガーZ: 【玉猫戦隊オーブファイブ】ピンチ!サテライトZ暴走。

コメント

  1. 〜【玉猫戦隊オーブファイブ】 第二 リンクリスト 〜

    最終更新日:2004.10.24 AM08:18 「玉猫戦隊 オーブファイブ」をご愛顧いただき、有難うございます。 リストは、時々刻々変化しております…

  2. すしバー より:

    まず細かいところですけど、あれですね。城北大学ってことは・・・、本郷猛さんと同窓生なわけですね!
    本郷猛さんも、確か理系の学生さんですから、すれ違ってるかのうせいもありですよね。
    なんせ、あの昭和が続いてる世界なんですよね?

  3. Ken より:
  4. BLOG STATION より:

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    深夜の発電所。警備員が定時巡回を終えて、詰め所へ戻ろうとする。警備業務の無人化の波に押され、彼の仕事も今月一杯で終わりを迎えようとしているのだ。「第5機械室、…

  5. BLOG STATION より:

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    【玉猫戦隊オーブファイブ】ユウカの死闘(前編)の続き。—  (3) 訓 練KFP本社ビル。敷地内の広大な駐車場では、ユウカとマルが激しい訓練を…

  6. びといん より:

    すしバーさん江
     さすがすしバーさん。小ネタに食いついてくださって嬉しいです。
     そう、本郷猛さんは同じ大学の大先輩です。
     本郷さんが所属していた生化学研究室は隣の建物です。

    Kenさん江
     そこじゃありません(笑)。

  7. びといん より:

     しかし、勝手に、のちの淑大僧正になる男の名前は「吉行」にしちゃったけど、これ、問題があったらご指摘ください。改定します。

     それと、勢いで、尾藤は教授にしちゃったけど、尾藤はまだ40歳手前くらいのイメージだから、元教授じゃ似合わないかもなぁ。まぁ、無視してください(笑)。

  8. すしバー より:

    >びといんさん
    助教授の方が、なんかかっこよくないですか?
    年齢的にも、若干出世の早いくらいでいけますし。
    うちの業界では、教授よりも助教授の方が腕自体はいい。というのが一般的ですし。

  9. びといん より:

    すしバーさん江
     そうですよね。助教授に変更。いただきました。

  10. おお、今回の話で尾藤さんの過去がわかるのですね。

    科学者のプライドが呼んだ悲劇なのですね。認められなかったものが世界中に自分の力を見せ付ける方法が・・・・

    なんか助教授っていうと次期教授選(もちろん尾藤は純粋な科学者で興味ないだろうが)とかもからんでそうですね。利権とプライドによる足のひっぱりあい。現実社会でもありそうだし。

    なんかシリアスな感じがとってもよかったです。一方、大将の「コンバットスーツ」のもってき方がうまいなあと思いました。このあたりのバランスが絶妙ですね。

  11. お玉 より:

    いろんな伏線が微妙にからまりあって
    お話になってゆくのですね。
    とても興味深く読ませていただきました。

    城北大学ってどこかで聞いたなって思っていたら
    あの『本郷猛』の母校だったのですね。
    演じた俳優の藤岡弘さんって、
    お玉が住んでいる愛媛県の出身なのですよ。
    近所のおっちゃんの話によると、
    「おとなしくて目立たない少年」だったそうです。

  12. 『息子へ』〜母(馬場ミサヲ)からの手紙

    元気でいるか。新しい街には慣れたか。なんの仕事で忙しいのか知らんが、便りがないのは元気な証拠と思っている。なにか機械の組み立て工場らしいが、気をつ…

  13. びといん より:

    マンガーZさん江
     はい。過去が分かります。でも、工場のメンバーには知らされませんし、大将にすら、自分では告白はしません。大将は薄々感づいているかもしれないのですが。
     シリアス過ぎるので、大将には狂言回しになっていただきました。ごめんなさい(笑)。

    お玉さん江
     城北大学はただの小ネタですが、他の伏線は……、いや、かれこれ一週間くらいいじってるんですが、伏線張りまくりで、今まで完成しなかったんですよ。あ、まだ後編は完成してませんが。
     で、藤岡弘、さん(ちなみに藤岡さんの芸名は最後に句点がつくんですよ「、」)は愛知県なんですか。
     現在はあんなに濃い顔なのに(笑)、目立たない少年時代だったんですか。

  14. ぷよぱぱ より:

    ★びといんさん
     朝、出かける前に慌ててリンクリストに載っけたのですけど、これも本編ということでいいですか?
     これで「サブ」は、もったいないっす。^^
     第何話がお好み??

  15. びといん より:

    ぷよぱぱさん江
     そうなんですよ。リンクリストで、これが本編の欄にあったので、絶対記載ミスだなと思ってたんですが、いまだに修正されず。
     俺としては、別に本編扱いでもいいんですが(というか光栄です!)、たぶん主役5人は出てきませんし、諸般の事情により(笑)一部キャラを差し替えたので矛盾をはらんじゃうかもしれません。
     んー、どうしよう。
     とりあえず、後編をアップしてからの判断でよいですか?
     小心者なのでずっとドキドキしっぱなしです。

  16. ぷよぱぱ より:

    ★びといんさん
     も、ぜんぜんOKです!
     設定は監督任せという、古きよき円谷方式(ホントか!?)ですので。^^
     好きなメンバで、やっちまってください。
     何話位におきましょう??

  17. びといん より:

    ぷよぱぱさん江
     じゃぁ、お言葉に甘えて、本編扱いにしていただきたいと思います。
     だいぶ飛ばして途中の回でもいいんですか。
     ネズ神博士登場の少し前がいいなぁ。

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