界導士ジノイ 04

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 ジノイが足をとめると、セシールもとめる。
 距離にして30歩くらい。ジノイが前、その30歩後ろにセシール。
「なんで付いてくるんだ」
「だってぇ。もうストリキニーネには戻れないし、か弱い乙女を独りにして放って
おく気?」
「乙女ねぇ……」
 ジノイは、露骨に呆れたしぐさを見せた。
「お前は、独りで生きていくんじゃなかったのか?」
「あんなの、言葉のアヤよ。女心を判ってないわねぇ」
「よく言う。都合がいいんだな。まぁ、いいか。勝手にしろ」
 ジノイは、また歩きだした。
「待ってよ。ねぇ、ジノイ!」
 セシールは、前のめりになりながら、ジノイに向かって走った。
「……セシール、お前、この国の生まれか?」
 ジノイの質問に、一瞬戸惑ったが、セシールは、きっぱりと答えた。
「えぇ。……私はこのトゥイラで生まれて、そして育ったわ。それが?」
「頼む。少し、俺に協力してくれないか?」
 セシールは、その”協力”という言葉に、少なからず猜疑の念をいだいた。が、
同時に、ジノイが悪人ではないであろうということも、直感的に感じていた。
「協力?」
「なぁに。セシールの知っている事を教えてくれりゃいいだけだ。言いたくないこ
とは言わなくても構わない」
 ジノイは、歩きながら、前方を見つめたままで言葉を継いだ。
「別に、他人の生きざまをとやかく言うような野暮はしないつもりだ」
「いいわ。私のような者の情報でいいなら、お役にたててちょうだい。そのかわり
……」
「あぁ。少なくとも、俺がトゥイラにいる間だけは、お前の盾になってやる」
「本当!? 頼りにしてるわよ。まさか、弾丸一発くらいで穴のあく盾じゃないでしょ
うね?」
「三発くらいはもつだろう」
 ジノイが冗談とも本気ともつかぬ声で言ったので、セシールは黙ってしまった。
「唐突だが、セシール。デマゴーグ大統領ってのは、どんな人物だ?」
 本当に唐突だ。
「デマゴーグ? 私は政治には興味はないけど、デマゴーグ・フランクリンは、ダ
メね。あいつが政権を握ってから、この国は荒れたもの。私は大嫌い」
「そうか」
 ジノイは、黙って聞いていた。
「デマゴーグが大統領に就任したのと前後して、セシリス・ヴァンホーン王子が失
踪したって噂もあるが?」
「……そうらしいわね」
 以後、セシールは無口になった。

(c)日向夢想/夢想人企画

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