復活の尾藤(後編)
「尾藤さん。鉄工所が、なぜこんな地下にあるのか、と思ってますでしょ?」
長いエスカレーターを降りる途中、馬場がそう言って笑った。
「誰だってそう思います」
「ですな! 先日、うちは特務機関だといったでしょう。ここは、その特殊装備開発研究部。要するに、国家機関から、ごっつい機械の開発・製造を請け負っているんですわ。もちろん、極秘で」
「極秘……」
「そう、極秘。なんだかワクワクしませんか?」
「……ちょっと、する……」
尾藤は、思わず言ってしまったあと、苦笑した。
「手っ取り早く、研究室の前に、ガレージを見てもらいましょうか」
薄暗い廊下を少し行くと、ひんやりした空間に出た。
「あぁ、その手すりの所にも工具やらが転がってますんで、足下、気を付けてください。今、あかり付けますね」
ショォン……。かすかな音と共に、壁面や天井の水銀灯が順に灯る。
「うわぁ……」
尾藤は息をのんだ。
「はい。馬場鉄工所のガレージです」
とてもそんな物じゃない。この規模は、もう格納庫そのもの。
「これが、ガレージ!? 間口だけで100メートルはあるじゃないですか!」
「あー、いやいや。はったりをかましてしまいました。このシールドトンネルは富士山麓の樹海まで続いてます」
「よく、これだけの大スパンの空間を地下に作ったものだ」
「ハイパーダグタイル技術を応用した工法です」
中央には大きな飛行艇のような物が係留されている。
「あれは、オーブクローラー。移動司令部ですな。明日から最終メンテに入って、それが済めば準備万端。また樹海の方……発進ドックに戻します。まぁ、極力こいつの出番がない方が平静って事ですけどねぇ」
ここまでの物を見せられたら、信じるしかなさそうだ。そもそも、ある程度の覚悟を決めて、やって来たのだ。
「ところで、なぜ俺なんかをスカウトしたんですか?」
「ここ最近の爆発事故、ご存じですよね」
「……俺は関わりないよ。……まさか、あんたらの仕業か!?」
「とんでもない。ネズロンですよ」
「ネズロン?」
「そう。邪魔(ジャマー)皇帝のネズロン帝国。やつらの動きが最近、活発化してきまして。こちらも、配備計画を前倒しして、装備強化せにゃぁならんのですわ」
「だからって、何も俺を呼ばんでも……」
尾藤は、ちょっとネチっこい性格のようだ。
「これだけの重要プロジェクトです。尾藤さんの素性は調べられているでしょう。司令部が人物調査はやってます。俺は、工場の代表として、最終確認をしているだけです。もう、決まった事なんでしょうな」
「そんな……、勝手な事を」
「もちろん、参加されるかされないかは、尾藤さんの自由です。ダメだとしても、なんらペナルティはありませんから、ご安心下さい。お互い、良識をもっているはず。上の連中も、変な人間はスカウトしないはずです。いや、まぁ、うまい言い方が浮かばないんですが、上が決めた事は信じてるんですわ。だから、尾藤さんが、ここに居る。もう、それだけで、他には言うことはないし、俺が何かを調べたりする必要ないと思ってます」
今の尾藤には、もう、他に行くところはない。
「何ができるかわからない。まして矢面に立つ自信なんかまったくない。それでも、そんな俺でも、居ていいなら」
尾藤は、言葉を選ぶように、ゆっくりと、そう言った。
「はい! それでいいです。好きな研究をやってください! それ以上、言うことは何もありません!」
「よろしくお願いします! 馬場主任!」
「ははは……はい、よろしく!」
馬場は、役職で呼ばれるのが苦手だった。
「じゃぁ、研究室ご案内します」
「皆、そりゃもう好きにやってもらってますから」
研究室に入る前に馬場はそう言っていたが、そんな事、言われなくてもわかる。雑然とした雰囲気で一目瞭然だ。
内心喜んでいる尾藤を察したかのように、馬場が、何度目かの同じ言葉をかける。
「どうです。ワクワクしませんか?」
確かに、こういう室は大好きだ。いかにも研究室。子供の頃、友達と原っぱの片隅に作った「秘密基地」で遊んだ時楽しさと似ている。
ドアに一番近い席に座っている女性が立ち上がって、会釈する。
「あなたが尾藤さんね? 大将から、凄い人が来るからって聞いてました。よろしく、私、玉造です」
「尾藤です。お世話になります」
やや無遠慮ぎみにジロジロと見る視線は、尾藤が最も苦手とする部類の無形攻撃だが、この玉造女史の愛嬌ある表情で、不思議とあまり気にならなかった。
「あ、大将。虎ケン司令が連絡下さいとの事です」
「あー! 忘れてた! やべぇ! 尾藤さん、ちょっと失礼します」
馬場は、慌てて司令部へ連絡を入れた。
『馬場ちゃん。とりあえず、ローカルで繋いでみたから』
「はい。じゃ、今つけてみます」
パソコンを再起動させる。
「あ、新しいアイコンが出てますよ。これをクイックすりゃいいんですな」
『クイックじゃない。クリックだ』
「どうでもいいじゃないですか。クニの方言なんですわ」
『どこの生まれだよ、まったく』
「はいはい。出ましたよ。おぉ、すげー。これ、使えます!」
尾藤も、モニタをのぞき込む。
「衛星からの画像ですか。凄い精度じゃないですか。さすが特務機関ですね」
「実はこれ、個人衛星なんですわ」
「個人の衛星で、ここまでできるんですか!?」
モニタの隅に小さなウィンドウが開き、男の顔が映った。しかし、ノイズがひどく、細かい表情まで判らない。しかし、音声はしっかりしている。
『そちらはまだセキュリティをかませてませんから、こんな不細工な顔のままで失礼します』
「はいはい。了解ですよ……えぇと、名前、まだ伺ってませんでしたが……」
『お好きなように』
「では……謎のサテライトZさん……。素晴らしいですよ。当然まだ未所属ですよね?」
『当然です。回線提供するなら、馬場さんに、ですよ。この間から、決めてますぜ。さっそく明日、機材持ち込んで、本設置します』
「お待ちしてます、サテライトZさん」
「あ、尾藤さん。デスクは、空いているところ好きなの使ってください」
頃合いを伺い、玉造が言ってくれた。
(すごいな……皆、それぞれのエキスパートなんだ……。それなのに、俺は、ここをただの逃げ場所にしようとしている……)
……。
「あら、尾藤さん。お早うございます。今日はちょっと良い顔ですね。オトコマエ!」
倶楽部オーヴのママが開店の準備をしていた。
「ははは。身内にお世辞使っても商売にならんでしょ!」
「尾藤さん、思い詰めるタイプでしょ。だめよ」
商売柄か。するどい。
「3日間も休暇もらってたし、大丈夫ですよ」
「大将! 今朝送っておいたの、見てもらえました?」
「尾藤さん、休暇だってのに、いったい何やってるんですか!」
言葉とは裏腹に、馬場はニコニコしている。
「メインの回路はこんな感じので考えてみようと思います。いけそうでしょ?」
「えぇ、えぇ!」
「基本設計ができたら、エンジンの方の詳細は大将にお願いしますよ」
「了解です!」
「それから、Zさん、制御システムをもうちょっとスマートに納められないですかね? 俺、ここが一番苦手なんですよ」
「さっき大将からもらったラフで、検討を始めてますよ。なんか、今日の尾藤さん、生き生きしてますね?」
「そうですか?」
「尾藤さん、復活、ですね!」
玉造が、相変わらずの無遠慮な口調で言った。
復活の尾藤 (了)
ねこぱんち!
→不条理み○きー:〜【玉猫戦隊オーブファイブ】 第二 リンクリスト 〜
→俺育て!虎ヘッド風味:熱闘ブログ編: 馬場ちゃん専用コンバットスーツがお蔵入りになった理由
→♪お玉つれづれ日記♪ 〜沖縄美人画報〜:『息子へ』〜母(馬場ミサヲ)からの手紙
→通勤マンガーZ: 特装研 衛星技師 ・ 謎野 Z
コメント
えっと、尾藤の過去の一端を公開し、そして、なんか知らんけど突然、トラウマから脱却しそうです、尾藤。
しかし、いろいろな設定を盛り込みすぎて、散漫になってしまいましたか。
不覚!
相変わらず会話が多いし……。
ども!
玉造ことお玉です。
読みごたえありますね!
馬場鉄工所のガレージのイメージが
あの馬場ちゃんの壁紙の絵とオーバーラップして
感慨深いです。
サテライトZさん、登場の仕方かっこいいです(笑)
それと、玉造って愛嬌ある顔なんですね。
しっかり私のコメントを膨らませてくれてて
カンドーしちゃいました。
はやくも次の展開が楽しみです。
お玉も絵かかなくちゃ(汗)
〜【玉猫戦隊オーブファイブ】 第二 リンクリスト 〜
最終更新日:2004.10.28 AM00:48 「玉猫戦隊 オーブファイブ」をご愛顧いただき、有難うございます。 リストは、時々刻々変化しております…
★びといんさん
素晴らしいです!
やっぱり本編で行きましょう。
オーブファイブの出ない本編!!
斬新です^^
玉造さん江
いえいえ、あのコメントは読んだ瞬間に、どうしても盛り込みたくて、即書き足しましたよ!
ガレージの描写が、商売柄、もっとこまかくやりたいのですが、がまんしました。
でも、クローラーのドックが樹海にある設定なのに、馬場ちゃん壁紙では、鉄工所の格納庫にも係留されてるし。
苦肉の策でシールドトンネルをでっちあげました。
ああ、格納庫内部がはっきりイメージできますね。
正直、建物の中ってのは明確にイメージできていなかったんで、この感じで右へ倣えさせていただきます。
あと、あれですよ、尾藤には淑大僧正と会ってショック受けてもらわないと・・・。
ぷよぱぱさん江
オーブファイブ出さなくて、ごめんなさい(笑)。
俺、戦闘シーンは苦手なんですよ。メカの稼働シーンだけでもいっぱいいっぱいです。だからいつも「ヴィーン」とかの擬音だけでごまかしてます。
すしバーさん江
商売柄、建物描写にはこだわってしまいます。それが、他の方の参考になればうれしいです。
すしバーさん江
え? やっぱり大僧正と対面しないとダメですか。
っていうか、対面しちゃってもいいですか?
なら、ぜひ書きたいシーンがあるんですけど(ニヤリ)
どんなシーンなんだろう!
オーブママです。
登場させていただけて、うれしいです。
結構、飲み屋のママ的スタンスで
親近感もてますよねw
淑大僧正との対面・・・。
実は、クラブオーヴで働いてる淑クンがいたりするんですけどね・・・(汗。
玉造さん江
どんなシーンかは、内緒です。
フジコさん江
いろいろな方に登場していただきました。
TVドラマを意識したんですけど、でも、文章で現すと無理がありますな。
地下ガレージ壮大ですね。
確かに街中でオーブクローラー発進できないですからね。樹海ってのはぴったりですね。
謎野Zの登場シーンまで書いていただいてうれしいです。みんなで物語つくってるんで、前の人の設定を受けて次の物語をつなぐってのは面白いですよね。
なんでいじってもらえてうれしいです。
オーブはでてないけど、玉造さんやクラブオーブのママなど「大人の女性」が登場していてこういうのもいいですね。
マンガーZさん江
オーブクローラーの母港(?)が樹海にあるってのは、ぷよぱぱさんのミキの巻にあったので、それと整合させました(なのに、工場の格納庫にも係留されているシーンの壁紙が先行してたので、ちょっと悩んだけど(笑))。
謎野本格登場、というか、ちゃんと工場に出向いたシーンは残してありますし、けっこう他の解釈もできるような描写にしてます。
快諾されて、こちtらこそ嬉しいです。
【玉猫戦隊オーブファイブ】 猫山 カオリの「サンダーポール作戦」 【前編】
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馬場鉄工所のメンツ確定
業務連絡 本筋もはじまって、はっきりさせておかねばならない部分として馬場鉄工所の
保険証は、国家公務員共済組合に変更させていただきますね。
Kenさん江
特務機関KINUSAYAも国家公務員なんですな。
『鼠』第一話
アップしてみたら、すげぇ長かったので『見ました鋼のB級魂』 に本文を移動させまし
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玉猫戦隊オーブファイブ。アナザーストーリー。「癒しの空間」「癒しの空間〜倶楽部オーブ」 重たいドアのカギ穴にキーを入れて回す。ギィィィィッと…