びと辞宛「うごかす」

うごかす[動かす]他五
(1)動くようにする。位置を変える。「机を−−」
(2)状態を変える。ゆるがす。感動させる。「聴衆の心を−−」
(3)否定されている事や不可能な事を成し遂げる。「地盤を−−」
(4)運転する。動作させる。「機械を−−」
(5)(自分の目的にかなうように)行動させる。「警察を−−」

「ユウコ2004」

 目の前、約3.03m先の路面に、突然亀裂が走った。
 そこから、身なりのいい男がピョコンと飛び出すと、ユウコに告げた。
「君はこれからしばらくの間、言葉の世界をさまようだろう。そこは不条理で何の脈絡もないだろう。でも、大丈夫」
 驚くユウコ。
「俺は、電介。あとでメールを入れておく。じゃぁ!」
 一方的にそういうと、男は、煙のように消えた。路面も、いつの間にか元に戻っている。
 ユウコは動揺した。何がなんだかさっぱりわからなかった。そりゃそうだ。ソクラテスだって、アインシュタインだって、三丁目のタマだって、こんな場面に出くわしたら、きっとうろたえるに違いない。
 頭が混乱しているが、とりあえず身体を動かしてみたい衝動にかられた。思いっきり腕を振り回す。
 と、そこでユウコは、はたと気付いた。
「しまったっっ! 言葉に動かされている!?」
 思わずそう叫んでしまったので、あたりの人達が一斉にユウコに視線を向けた。だが、ユウコはそんなことはお構いなし。
「それにしても、あの男っ!! 脈略ないのはあの男そのものじゃないの!! 電介……電介って言ってたわね!?」
 ユウコが「電介」と言った途端、民衆の中の一人の男が、ユウコに詰め寄ってきた。
「あなた、あの男を、知っているんですか?」
「え?」
「私は待っていたんですよ。ずっと、ずっと! 組織を動かせるのは、あなたしかいません!」
 民衆は、「おお!」とどよめき、拍手した。皆の目には光るものがあった。涙である。

→びと辞宛