一番古い記憶

 不思議と古い記憶ほど、いい出来事、楽しかった思い出の率が多くなる。

 仕事から帰った父が、玄関で靴も脱がずに「いくか!」と怒鳴る。
 細い身体から発せられたとは思えぬほど、響き渡る声だ。もっとも、安アパートの一室。普通の声でも十分に響き渡るが。
「うん!」
 おかえりなさい、とも言わず駆け寄る俺を抱きかかえながら、父は言う。
「出かけていた俺やかあさんが帰ってきたら、まず、『おかえりなさい』というんだぞ!」
「うん!……おかえりなさい!……行こ!」
「あぁ、行こう!」

 手を繋いで、少し歩く。
 今、地図上で再確認すると、ほんの200メートルくらいの距離だが、当時は数十分歩いたような気がする。

 アパートのすぐ近くに都電(路面電車)が走ってて、夕方か暮れてからか、とにかくそんな時間に、父に連れられて見に来る踏切が大好きだった。

 警鐘が鳴る。
 らんぷが点滅する。
 遮断機が下りる。

「電車が来る事」ではなく「踏切の動き」が好きだった。

 踏切の動きを何度か見ると満足して、アパートに帰る。
 時々、帰路途中で焼き鳥を買ってもらえた。

 共同の炊事場に寄ると、母が「できたよ!」と、コンロから鍋を上げる。

 以上は、たぶん2歳から3歳の時の記憶。
 俺の記憶の中では、一番古い出来事。

 ねこぱんち!
上上下下左右左右bA: あなたの一番古い記憶は何ですか?

Tag(s) [記憶][思い出]