フラグメントファイルあるいはエージェントのための仕事部屋[evolve]../002

フラグメントファイルあるいはエージェントのための仕事部屋[evolve]

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「じゃぁねっ! ユウコ、ばいばぁい!」
 ちぎれそうなほどに、手を振る。
 ひとつ手前の停留所でバスを降りるユウコに、姿が見えなくなるまで、マキは手を振り続ける。
「あーあ、子供じゃあるまいし、恥ずかしい」
 ユウコは、毎度の苦笑で、控え目に手を振り返す。
 マキは、いつもそうだ。かなり恥ずかしいけど、悪気ではないんだし、マキは本当にいいこなのだ。
 おかげで、バス停から独り暮らしの自分の部屋までの十数分間、何となく温かい気持ちで、元気に歩いて帰れる。
 感謝、感謝、だ。
 部屋に着くと、まずはシャワーを浴びる。女の子だもんね。
 髪を乾かしながら、パソコンのスイッチを入れる。ネットワークへのアクセスが、ユウコの日課。マキたちと、スマッシュのキムタカやナガイ君の話をするのと同じくらい、大切な日課なのだ。
 だけど……、その日課も、今日で終わりになるかもしれない。

 全ては、あいつのせいなんだ。
 なんでサイバーテロなんか仕掛けたのよ。
 目的が有るなら、もっと照準を定めろよ。
 危険だからアクセス規制を掛けますって、それが国のやりかたなんだよね、毎回。

 だけどだけど……、どうしようもないことだというのは、ユウコも感じていた。

「今日もいちにち、たのしかったよ」
 それだけ書いた。いつも行く掲示板に。

 ユウジから先週もらったメールを、無意識にプリントアウトしている。
 その文字を改めて目で読んで、ユウコは涙ぐむ。
 内容は、他愛ないものだ。でも……ユウジはもう居ない。

 プリント用紙を折って、紙飛行機にした。
 窓を開けて、紙飛行機を放つと、瞬間、コメカミが痛くなった。
「あっ。そういう事なんだ……!」
 ユウコはケータイを拾い上げ、マキの番号を押した。

 明日「戻る大捜査網2」を見に行くのだ。その待合せ場所を決めなくちゃ、ね。

 ../003_オレンジ に続く。

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