../000/電介
../000/ユウジ
エアバスの遅れが、まったくもって不愉快だった。
これじゃ、ダイシ-テンプルの池で自然繁殖している亀を眺める余裕はおろか、カトーの店のまずいラーメンを食う時間もない。
(直行しなきゃならない。せっかく、久しぶりに帰ってきたというのに)
愚痴をいってもしょうがない。仕事で来たのだ、とユウジは自分を無理矢理納得させた。
カイソクに乗り換え、ニシャラ・ステーションで下車すると、すでにそこには漂うラーメンの香りがあった。
自称名物のプラットホーム・ラーメンの香りである。
(ここにも、いつの間にか軌道チューブが敷設されたのか。わざとらしくにおいを放って置きやがる)
シノハラ・ユウジは、やや過剰すぎるラーメンの香りを、それでもうれしそうに吸い込んだ。
この安っぽい香りにつつまれると、心底「あぁ、帰ってきたなぁ」と思い、胡散臭い「名物」という幟の文字が目に入ってくると自然と苦笑が浮かんでくるのだった。
(まだ、相変わらず麺はボソボソなんだろうか)
ラーメン屋のカウンターの中をちらりと覗くと、カトーの顔があった。元気そうでなにより、とひとりで喜んだ。
ステーションのエントランスに出てみると、雨が降っていた。
「ひどいなぁ。降雨予定くらい、車内情報で流してくれればいいのに。着いたらダウンロードしとこう」
ユウジはこの街で生まれ、17歳まで過ごした。
色々な思い出がありすぎて、この街を、わざと客観的に見ることしかできなかった。
../000/ユウコ に続く。
コメント
フラグメントファイルあるいはエージェントのための仕事部屋[evolve]../000/ユウコ
../000/ユウコ