界導士ジノイ 00

 序章

 店内に流れている、心臓に突き刺さるようなビートなど、ないのと同じだった。
誰の耳にも届いてはいない。(精神的な)静寂さが充満した。
 みな、店に入ってきた男の、真紅のローブを見つめている。
 あくまでも「ローブを」だ。男の顔を直視するような勇気はない。
(ここにも……界導士(かいどうし)が来た……)
 そう誰かがささやいた途端、はじけたように、みな、よそよそしく、元のように
振る舞おうと努めた。
 男−−ジノイ・タッカーは、入口の脇に無言のまま立ち、店内を見渡す。
 たまりかねた支配人が、恐る恐るジノイに歩み寄り、声をかけた。
「あのぉ……だんな……。へへへ。店内では困ります……」
「……おやじ、心配するな。俺は客だ」
 ジノイは、界導士(知らない者が噂のままに思い描く界導士像)に似つかわしく
ない、少し高めの声で、しかし静かに言った。
「あ、はい……。そういうことでしたら……。へへへ。ひとつ、穏便にお願いします」
「しつこい」
 ジノイは、無愛想に応えると、カウンターの空席に向かった。
「デリンジャーをもらおうか」
「は、はい」
 バーテンダーも、決してジノイの顔は見ようとしないまま、返事をした。シェイ
カーを振る音が、動揺している。

 その存在が噂され始めたのは、いつ頃からだったかは定かではない。確実視され
たのは、例のコイルダ・ケルンの事件であった事は間違いないのだが。
 ヴェ教団。
 全世界に目を利かせ、悪人を天界に導く教団。
 目をつけられた者には、死あるのみ。
 ヴェ教団の活動は、悪人の心を浄化した上で天界へ送ること。
 それを行なえる者、すなわち、天界へ導く者を「界導士」と呼ぶ。
 その活動から、ヴェ教団を邪宗呼ばわり、果ては殺人集団呼ばわりする者も少な
くない。「殺人」という言い方は、ある意味では事実ではあるが。
 しかし彼ら界導士には「殺人」という意識はまるでないし、彼らが「天界へ導く」
者たちは、みな、万人が認める真の悪人である。
 それはともかく、人々の間では、ヴェ教団の界導士のことを「血まみれの短剣」
とも呼んだ。

(c)日向夢想/夢想人企画

コメント

  1. ろぷ より:

    おう?おおう?
    びといんさんも、始めちゃったんだね。小説。

    ほうほう…ジノイさんですか…
    なりやら、謎に溢れる始まりだ。

    チェックチェック♪

  2. びといん より:

    ろぷさん、早速のコメントありがとうございます。
    これは、10年くらい前に書いたもので、5話くらいで停まっていて未完です。
    斉藤英一郎、火浦功あたりの影響を受けてます。というかそのまんまかも(笑)。

  3. わ、小説始めたんだ〜。
    おぉ〜〜。
    私もがんばらなきゃね

  4. ミサト より:

    こんにちは。
    病み上がりでのGW明けのお仕事お疲れさまです。
    先日は失礼なレス申し訳ありませんでしたヾ(_ _*)ハンセイ・・・
    この間からちょこちょこ「詩」「小説」カテゴリーの記事読ませていただいてました。あえて小説の最古記事(ですよね?)にコメントです。

    むむむーーー独特のびといんワールド・・ワタシにはオチやツボがわかりにくいみたいですーー( ´△`)アァ-センス磨いて出直してこなくちゃ・・・。

    ユウコ2004と、ケンちゃんの話好き♪

  5. びといん より:

    ミサトさん江
     ありがとうございます。
     俺の小説のオチやツボは……個性というか一貫性がないですからねぇ。勢いだけですよ。はは……ははは。
     一番まともなのは、共同企画に参加した「玉猫戦隊オーブファイブ」関係ですかね。「オーブファイブ」カテゴリ内です。