ネズ神博士登場(2)
「作戦会議」とはいっても、然したる名案は浮かばなかった。静かな、しかし重たい雰囲気のまま、1時間以上経過した。
先程までここに居たオーブレッド=猫田ミキは、オーブクローラーの司令室へ戻った。依然として乙種警戒待機は解除されていない。
「ネズロン反応への感度を上げてみてはどうでしょう?」
玉造だ。それに謎野が応える。十数分ぶりの会話になった。
「まだレンジに少し余裕はありますが、これ以上やっても無意味ですよ。淑大僧正が発するネズロン反応は微弱です」
「少し余計にネズロン兵が引っ掛かる程度って訳ですね」
「そう。それに、こちらの位置が特定される危険も増大しますし」
「考え込んでも、どうしようもないって感じですな」
馬場がつぶやく。
皆が自分を意識しているのを、尾藤は感じていた。
「俺、淑大僧正を、知っているんです。たぶん……」
尾藤は、立上りながら言った。
「尾藤さん、ヘリの飛行テストを兼ねてミキを迎えに行った日、大僧正と対面したらしいしな」
黒島が、天井を見上げながら言った。悪意は感じられない。ぶっきらぼうなのは、この男の性格なのだ。
「いや、黒島さん。そういう事じゃなくて……」
少し呼吸をおいてから、尾藤は、意を決したように、続けた。
「……淑大僧正は、かつての知人の成れの果てかも知れないんです」
「!!」
皆、驚いた。無理もないことだが。
明らかに先程までとは違う緊張した空気が、室に充満した。
しかし、馬場は、静かに目を閉じた。それを見て、皆が腰を戻す。
尾藤だけは、立ったままだ。
「行方不明の、吉行。俺の同僚だった……」
「司令本部のブラックリストに載っでる、吉行淑之だな? やつぁ、一応、城北大学に籍あっだな」
大岳が、さらりと返す。
「で、それが? ん? やつが、ネズロンの淑大僧正だどゆうのか?」
「確信に近いものがあります」
尾藤の説明は、その言葉から始った。
:–
吉行と俺は、学生時代、同じ研究室に所属していました。
年齢は、吉行の方が上で、やつは、最初は生化学研究室に所属していて、俺が都市環境物理学研究室に入るのとほぼ同時期にこちらに来たんです。
その当時は、いや、あの再会までは、まったく気にしていなかったんですが、今思うと、やつは、ほぼ1年間で、生化学を「自分なりに」習得してしまったんでしょう。
あの、ネズロン兵生成の技を見ると、そう思います。
吉行は、できるやつでした。どちらかというと、天才というよりは秀才タイプでした。どん欲に、あらゆる知識を吸収しようとしてました。まぁ、試験のための勉強というか、そういう事に関しては機転が効く、ある意味、天才であったかもしれません。
ですから、うちの研究室に移ってきた時も、皆、不思議には思わなかったんです。新しい知識を得るためかなと。
しかし、次第に、やつの行動がおかしくなっていきます。
もう、露骨に「知識吸収そのもの」が目的になっていったんです。
もちろん、俺ら科学者は、誰でもそういう思いはあるだろうし、この工場(こうば)のみなさんも、多少はそうでしょう。
ですが、吉行の場合は、微妙に、ズレてました。
やつには、独自研究と呼べる成果は皆無だったし、かといって、誰かのサポートは毛嫌いするという、最大の欠点があったんです。
それでも何故か、ある時、教授候補のひとりに吉行の名が上がったんです。
まぁ、俺たちは、吉行が教授会等に賄賂工作を行ったか、何かの弱みを握ったか、大方そんな辺りだろうと思い、それが吉行のやり方であれば、別に好きなようにすればいい。同僚の多くは、そう思って放っておきました。教授の座にだって、然したる執着もありませんでしたし。
結局、吉行は教授にはなれませんでした。が、その直後に、やつは施設内で暴れ回り、そのまま行方不明になってしまいました。
:-
尾藤が、一通り説明を追えて、とりあえず、各自のデスクに戻った。
喫煙室で、尾藤と馬場がタバコを吸っている。
「大将、やっぱり、俺が出て行きますよ」
「いや、しかし、危険ですわ。そもそも出て行くといったって、どこへ? 大僧正の「あの場所に迎えを出す」って言葉は、ハッタリでしょう?」
「えぇ、そうでしょうね。誘き寄せることが出来ればいいんですけどね」
「んー。まぁ、とりあえずは、あんな子供だましみたいな揺さぶりには動じる必要はないでしょう」
馬場は、のんきに煙の輪っかを吐き出す。
「次に大僧正が現れたら、俺も現場に行きます。いいですね?」
「いいでしょう。司令にも了解取っておきますわ」
「それと……」
「ん?」
「あ、いえ。例の強化パーツも、もうすぐ完成です」
尾藤は<城北大学事故の時に、吉行にマイクロドライブ設計図データの一部を盗まれた>事は、馬場に言えずに、言葉をごまかした。
「そうそう。それが急務ですわ! ネズロンに大打撃を与えましょう」
:-
ある山中。
滅多に人が立ち入らない山奥に、比較的樹木が少ない、ちょっとした広場があった。
その空間がゆっくりと揺らぎ、まるでタケノコが伸びるように地表から何かが生えてくる。いや、そう見えるが、実際は亜空間から出現したのだ。
10メートルくらいの高さにまでなると、いよいよ完全に実態を現したそれは、装飾とも装甲ともつかない、奇妙で周囲の風景に似付かわしくないメタリックな外観をしている。
まさに、機械的なタケノコという感じ。
ネズロンの小型機動基地だ。
小型といっても、その性能は高く、浮遊要塞=幻魔城のテストヘッドの役割も兼ねている。
「チュチュー!」
「何事だ……」
なにやら機械をいじっている男は、ネズロン兵には向かず、そのまま、いぶかしげに返事をした。
「邪魔皇帝陛下からの通信です」
「ほう。皇帝自ら……久し振りじゃな。こちらの部屋へまわせ」
「チュチュー!」
「ふん。あの”小僧”は、やっぱりダメだったのか。やれやれ」
男は、そう言いながら、通信回線に出た。
<元気にしておるか、ネズ神博士>
「これはこれは、邪魔皇帝。皇帝お直々とは、どうされましたかな?」
男……ネズ神博士は、やる気無さを装いつつも、内心はほくそ笑んでいた。
玉猫戦隊オーブファイブ 第13話「出た!最強最悪の新幹部登場だぞ!」より
ロケ地
東京都文京区 都営大江戸線飯田橋駅出口装飾(建物外観)・小石川植物園(背景樹木)
コメント
【玉猫戦隊オーブファイブ】 メイン・リンクリスト (全153編 増加中)
最終更新日:2004.11.21 AM01:50タイトルをクリックすると主題歌が聞けるよ! 「玉猫戦隊 オーブファイブ」をご愛顧いただき、有難う…
いよいよネズ神博士登場ですか。
淑大僧正を「小僧」と呼ぶ男とは、一体どんな・・・
ロケや写真加工までしてるんですね。
小石川植物園、東京にいた時に何度か行きましたよ。
安らげそうなところですね。
なるほどなぁ、吉行って男はそうだったのか、
確かに、天才と呼ばれる人間の中の一つのタイプではありますよね。
科学者の暴走の過程が細かく描かれてますね。最初はそうではなかったのでしょうが、結果ばかりを求めゆがんでしまった男の求めるものはおそらく自分が望んで手に入るものではないのでしょうね。
内心はほくそ笑んでいたという男が何をたくらむのか興味シンシンですね。
agricoさん江
ロケ目的で撮影したものじゃなく、休日に遊びにいった時に撮影した手持ちの物を加工しただけです。
この、地下鉄出口、何かの秘密基地役に使いたいと、ずっと思ってたんですよ。
すしバーさん江
吉行は、「最初はいいやつだった」って設定も考えたんですが、簡単に性悪人間にしてみました(笑)。
通勤マンガーZさん江
ネズ神博士は、たぶん、吉行みたいに元人間じゃなく、邪魔皇帝と一緒に復活したお供、みたいな感じじゃないかなと設定してます。
今回の話では、ネズ神博士の大きな企みはなく、淑大僧正をあざ笑うだけです。
番組後半の幹部ということで、他の人に弄っていただければと思います。
ってことで、ペーパークラフト作成中の息抜きのコメントです。
(白バージョンはできたよ! 今、色着け中)